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telealias

 ニワトリだって空を飛べる。

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2009-12-20(Sun)

台詞指導

 というのは、先日発売された短編集「時の娘」収録の、フィニィの作品の名前だけど、そんなわけで台詞回しを考える話をしたいと思う。ごめん、フィニィの話はしないんだ。ごめん。でも「時の娘」はめちゃくちゃ面白い時間SFのオムニバスなので、タイムトラベルものが好きな人はぜひ読んでほしい。「台詞指導」と「時が新しかったころ」は本当に面白かった。どちらも初訳。おすすめ。

 さて、台詞回しである。
 いつも頭を悩ませている。
 嘘をついた。
 実はあんまり悩んでない。本当はもうちょっと考えて書いたほうがいいんだと思う。じっさい、自分の作品の台詞回しと言うのは、くどかったり、しつこかったり、だらだらしていたり、読み返してみると頭を抱えたくなる台詞ばかりだ。けれども、それがたぶん彼ら自身の言葉なので、ぼくとしてはああするよりほかないのかもしれない。

 ぼくは台詞を書くときにあまり考えていない。
 何を言わせるか、それだけを意識している。
 あとはキャラクターの性格に沿って、それを文章にする。説明的になりがちなのは、そういうところが原因かもしれない。ずっとこういうやりかたでやってきて、けれども今まで特に何も思わなかったところだから、もしかしたら自分の中で今後よりよくするために手を入れられる最大の余白だったりするかもしれない。

 まぁ、考えてないとはいったものの、プロセスは言語化できそうだ。
 
・言わせたい内容を決める
 何を話させるか。これが決まらないかぎり、台詞は書けない。当たり前のことだけど、台詞が書けないときは、自分が話をできないときと同じだ。何を話そうか、それがない。まずは「話題」決めから。

・話者の特徴づけをする
 レトリックの話になるけど、文章というのは、言葉と表現 #1に書いたとおり、同じ意味でも書き方を変えるだけで印象が変わる。これを生かさない手はない。

 一人称と終助詞の使いわけが基本。

 たとえば、同じ「僕」でも漢字とひらがなとカタカナではぜんぜん違う。男で「ボク」と書けば気障ったらしくなるし、女の子ならボーイッシュになる。「ぼく」は幼い男の子ならば、なるほど歳相応っぽいだろうし、逆に大人なら、「ぼく」と書くやわらかさに意味があるかもしれない。少なくとも「僕」と書くよりは、気弱さがあるかもしれない。

 終助詞は、というか語尾だけど、「~だよ」と「~だぜ」では話者の性格の印象が変わるのは、言うまでもないと思う。あまり特徴的な語尾にすると「現実味がない」「不自然」なんて言われたりもするのだけど、それはそういう表現としてあってもいいかなというのがぼくの立場だ。おかしな語尾に理由付けするのだって面白そうだし。

 もう少し突っ込んだ話をする。漢字かなの割合がひとつ。漢語を多用すると、堅い印象になる、というのは、前の日記を読んでるひとにはもうわかってもらえてるはず。
 逆に、ひらがなを使うとやわらかい印象になる。語気を強くするときには断定表現を多用するし、逆に言い切りを避ければ態度を弱めることができるし、あるいは皮肉めいた様子にもできるだろう。
 一文の文字数が少ないとリズムが軽くなり、一文の文字数が多いと、重い文になる。接続詞の連結を多用したらくどくなる。「し」連結を繰り返すとしつこくなる。
 そう、分かってるの。ぼくの台詞がくどかったりしつこかったりするのは、これが原因だと思う。知ってる。
 学者然としたキャラクターに長文を喋らせると、それらしくなるだろう。一文が短いのはせわしい感じが出る。
「てにをは」を省略するとルーズな感じになる。「ら抜き」や「い抜き」と併用するとより砕けた感じになるだろう。逆にこれをきっちりやると、丁寧語を使わなくとも、丁寧な感じにできる。
 倒置や体言止めはもったいぶった表現で、これを繰り返すやつはうざく見えるような気がする。
 しかし、ときと場合によっては、相手により話を聞いてもらいたい!という気持ちの表れになるし、切迫感を表現できるかもしれない。言いたいことから順番に言ってって、後から付け足すような話し方は、倒置で表現できる。
 長音記号(ー)や感嘆符(!)、疑問符(?)、促音(っ)、三点リーダ(……)、ダッシュ(――)などは、喋り方を表現するのに分かりやすい。これらの使用頻度でも、話者の特徴付けができる。

 ここまで書いたようなことを、キャラクター作りのときに考えておくと、キャラクターの性格付けにもなるし、スムーズにエピソードを考えられるようになるかもしれない。もちろん台詞を考えながら性格を考えるというやり方もかまわないと思う。

・話題展開の方法を決める
 実際に台詞を書く前に、もうひとつ決める必要がある。
 読者にその話題に興味を持ってもらいたいか、持ってもらいたくないか、いずれかを決めておく。
 これはシナリオ的な観点からで、話題に興味を持ってもらうのは、直後の展開のために、前提知識として知っておいてもらいたい場合などだろう。持ってもらいたくない場合というのは、より後の展開に影響する場合、つまり伏線として使う場合だ。
 どうすれば読み留めてもらえるか、読み流してもらえるか。それは、簡単に言えば読みやすさが鍵になる。読みやすさをコントロールすることで、読み留めるか読み流すかをコントロールできる、と思う。
 読みにくい文は、考えて読む。考えたものは頭に残りやすい。印象づけのために、読者がつまづくようにする。読みやすい文は、さらさらと読んでいく。あとには残りにくい。印象的な表現を避ければ、ただの文として読み流されがちだろう。
 あるいは、重要そうじゃないような見せ掛け、というのもある。笑いのネタにしたものが、後半の展開でキーになるとはあまり思われないからで、こういうミスリードのための印象付けもありだろう。
 さて、読みにくい文は、つまり、口論だ。あるいは質疑応答だ。これらは言葉のやりとりが煩雑になりがちだから、読んでいてよく引っかかる。逆に、誰かの話を一方的に聞いて、うんうんと相槌を打つようなのは、わりとすんなり読める。
 世界観説明などでは、終始質疑応答にすると非常に読みにくくなる。だから、まぁこういうのもあるんだよ、程度の内容なら、相槌を打ってスムーズに進行させたほうがいい場合もある。
 また、議論形式は、主張と反論を繰り返すから、より深い内容まで突っ込んだ話ができる。話題をエスカレートさせたい場合には、適切な反論者の存在が結構大きい。

 今まで書いたことを統合すると、話し手対聞き手型の会話と、話し手対話し手型の会話がある、というところ。前者がスムーズに展開しやすいが発展性が低く、後者が会話を断続的にして読みにくくしたり発展させたりしやすい、という感じ。
 必ずしも一対一ではないけど、後者の場合は二派に分かれ、聞き手はそれぞれのフォロワーという感じになるかな。
 登場人物ごとに話し手、聞き手の役割分担を考えておくことも、もちろん重要。

・実際に書く
 あとは書くしかない。意外と、書いているときのほうが「こう言われたら、こういうふうに返すだろうな」みたいなのは自然に出てくる。これはその立場になって実際に話すところを想像する。レトリックを知っていれば、それが助けになることもよくあると思う。慣れの問題もある。ゆえっちではないけど、引き出しが多ければ実際に書くときにさっと思いつくもの。こういうときどうすればいいんだっけ?というきっかけがあれば、あとはGoogle先生が教えてくれるだろう。


 こんなところかしら。
 即興はきびしいので、自分の作品から例を引用してまとめにしようと思う。

 ちょうど昨年短編をひとつ書いたのでそこからの引用で。

 ***

(前略)

「え、えと。こんにちは」
 誰だっけ、名前、何て言ったっけ。逡巡。思い至るより早く、彼が口を開いた。
「倉科、さん、だよね。どうしたの?」
 どうしたもこうしたもない。本屋にいるんだから本を買いに来たに決まっているだろう、と思ったが、不機嫌さは表に出さず、
「本、買いに」
「そうなんだ。ぼくも、同じ」
 そう言って、一冊本を掲げてみせる。『荒野』とあった。桜庭一樹か。最近の流行りではある。
 一応尋ねてみた。
「桜庭一樹、好き?」
「あ、知ってるんだ。ていうか、そうか、そうだよね。倉科さんって本読むの好きなんだっけ」
 何で知ってる……とは言わなかった。生徒の間で、文庫のことを密かに『図書館の主』などと称しているらしいことは、知っていた。校内ではちょっと有名人らしい。
「それなりに」
「桜庭一樹は、ずっと前から読んでてさ。『荒野』も、シリーズが途中までだったから、完結したって聞いて。倉科さんは、何を?」
 何を買いに来たのか、と問われれば、
「特に。面白そうなのがあれば」
「あ、そうじゃなくて。桜庭一樹だったら何が好き?って聞こうと思って」
「赤朽葉家の伝説」
「……それはまた」
 首を傾げた。読んでないのだろうか。面白いのに。

(中略)

 何件回ったところだろうか。
「ええと、まだ、見つからない?」
 長谷川が音を上げた。
「どうせ暇潰しだから読むのはなんでもよかった。ただ、どうせ暇を潰すのなら、たまには本屋巡りも楽しい」
 肩で息をする長谷川を振り向き見ると、涼しい顔をして文庫は答える。
「倉科さんって、意外と体力、あるんだね……」
「中学、陸上部だったから」
「そう、なんだ……」
 涼しい顔を装っているが、実際、身体中に汗をかいてとても気持ち悪い。暑いし、結構足も痛い。水分とナトリウムだけは欠かさないようにしたから、熱中症にはならずに済んでいるみたいだ。一方、長谷川の方は、軽い脱水症状を起こしているように見える。放っておくと、あんまりよくない。
「水、飲んだら?」
「というか休みたい……」
「男の子なのに」

(後略)

 ***

 書いた時期がちょうど「荒野」が出た頃だった。
 さておき、女の子の口調は「てにをは」を抜く代わりに読点(、)を多用して、呟くような、ささやくような話し方を意識してみた。唐突でそっけない中に、彼女なりの意識みたいなものを感じてくれたらうれしいかも。
 途中で誤解させることで、お互いの認識の差みたいなのも出してみた。男の子の方は彼女と会話したそうだが、女の子の方は買い物に意識がいっている。
 中略の次からは三点リーダを多用して男の子の疲労具合を出した。これはすごく分かりやすくていい。一方で、女の子はこれまでよりちょっと饒舌かも。もしかすると、本探しが楽しいのかもしれない。

 あんまり例文としては面白くないかもしれない。キャラクターの個性で言えば、もっとキャラクターがたくさん出てくるほうが分かりやすいかも。しかしいい例がちょっとぱっと出てこない。

 あまりまとまりのない文になったけれど、参考になれば幸い。

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